Dealer Hedge Flow の方法論
オプションのディーラー(マーケットメイカー)は価格の方向に賭けることを望まず、原資産を売買してオプションブックを デルタヘッジ された状態に保ちます。オプションのデルタは価格が動くと変化するため、ヘッジは絶えず調整しなければなりません。 Dealer Hedge Flow(ディーラーのヘッジフロー)は、各価格水準について 1 つの問いに答えます。価格が現在の水準からその水準まで 動いた場合、ディーラーはヘッジを維持するために何米ドル分の BTC を売買する必要があるか。そして、そのフローは値動きを 後押しするのか、それとも押しとどめるのか。
| 効果 | ディーラーの行動 | 値動きにとっての意味 |
|---|---|---|
| 抑制 | 値動きに 逆らって 売買する:上昇局面で売り、下落局面で買う | 値動きは追加の売り・買いにぶつかり、減速しやすくなる |
| 増幅 | 値動きに 沿って 売買する:上昇局面で買い、下落局面で売る | 値動きに追加の燃料が注がれ、加速しやすくなる |
データソースは Deribit の BTC オプション市場です。プロファイルは 1 時間ごとに再計算され、履歴は 2026-03-16 から始まります。 Lab → ダッシュボード → Blocklens Special → Dealer Hedge Flow、API、MCP サーバーで利用できます (§8)。
Dealer Hedge Flow は、公開されている約定から構築したディーラーのポジショニングの記述的モデルです。報告されたディーラーの ブックでも、価格目標や取引シグナルでもありません。制約 を参照してください。
1. 何を示すのか
1.1 ヘッジフローとその効果
価格水準 に対する ヘッジフロー とは、オプションポジションを現在のまま保持した状態で、価格が現在価格 から まで移動する間にディーラーが売買する USD 建ての総額です。
- — ディーラーは に至るまでに BTC を 買う。 — ディーラーは 売る。
- これは経路全体に対する 1 つのドル建ての合計値であり、ストライクごとの値でも「1% あたり」の値でもありません。
そのフローが値動きを助けるか妨げるかは値動きの方向によって決まるため、プロファイルには インパクト、つまり値動きの方向で 符号付けしたヘッジフローも表示されます。
- インパクト > 0 — 増幅: ディーラーは値動きの方向に売買する(上昇時に買い、下落時に売る)。
- インパクト < 0 — 抑制: ディーラーは値動きに逆らって売買する。
ロングガンマ(差し引きでテイカーから買ったオプションを保有している)のディーラーは、価格が上がると売り、下がると買うため、 値動きを抑制します。ショートガンマ のディーラーは価格を追いかけるため、値動きを増幅します。プロファイルは、ブックが この 2 つの状態の間で切り替わる水準と、各水準で何ドルが動き得るかを示します。
1.2 ダッシュボードの読み方
- プロファイル — 現在価格の ±30% の範囲で、固定の $500 グリッド上の価格水準ごとに 1 本のバーを表示します。バーは USD 建てのインパクトで、増幅と抑制で色が分かれ、長さは価格がその水準まで動いた場合のフローの大きさを表します。
- ヒートマップ — 1 時間ごとのプロファイルを横に並べたものです。x は時刻、y は価格、色は その時間の プロファイルが その価格に与えたインパクトです。BTC 価格とゼロガンマ水準が重ねて描画されます。これはモデルの履歴であり、実際に行われた 取引の記録ではありません。
- タイル — ネット GEX、ゼロガンマ水準、価格が ±5% および ±10% 動いた場合のヘッジフロー (§3.6)。
- ストライク別寄与 — ネット GEX をストライクごとにコールとプットに分解したもので、ディーラーのガンマがどのストライクに 集中しているかを示します。
2. ディーラーポジション
2.1 全約定履歴から
Deribit は、誰がどのオプションを保有しているかを公開していません。そこで当社は、各オプションの上場以降の Deribit の全約定履歴 から、すべてのオプション(すべての満期、ストライク、タイプ)についてディーラーポジションを再構築します。各約定には テイカー(成行注文を出した参加者)のサイドが記録されています。ディーラーは、すべてのテイカー約定の相手方であると 仮定します。
- — ディーラーはオプション をロング(テイカーがディーラーに売った)、 — ディーラーは ショート。
- 数量は BTC 建てです(Deribit の BTC オプション 1 枚は 1 BTC)。
- 一度も取引されていないオプションはインベントリが 0 ですがボードに残すため、ストライク軸とコール/プットの内訳は完全な 状態に保たれます。
妥当性チェックとして、ディーラーのインベントリの絶対値の合計は建玉のおよそ半分(確認したボードで 45–59%)になります。 建玉の一部はディーラー以外の参加者同士の間にあるため、妥当な水準です。
2.2 先読みなし
1 時間ごとの各プロファイルは その時点の ポジションを使用します。合計するのは、スナップショットの時刻までのタイムスタンプを 持つ約定だけです。履歴は約定履歴を 1 回の順方向パスで計算します。各日の約定を時系列順に加算し、各時間のボードはそれに先立つ 約定を加算した直後に計算します。したがって、過去のプロファイルがそれ以降の約定を知ることはありません。
2.3 前提
| 前提 | 意味 | 成り立たない場合の影響 |
|---|---|---|
| すべてのテイカーはディーラーを相手に取引する | 各約定のメイカー側はヘッジを行うディーラーである | ディーラーでない(またはヘッジしない)メイカーも存在する。実際のフローの規模はより小さいが、符号の構造は通常保たれる |
| ポジションはスナップショット時点で固定 | 経路に沿って価格を動かしても、オプションの新規建てや決済は発生しない | 長い経路では新たな約定がブックを変える。プロファイルは「今この瞬間に動いたら」という像である |
| スティッキー・ストライクのボラティリティ | 価格が動いても、各オプションはインプライド・ボラティリティと満期までの期間を維持する | 実際にはスマイルは価格とともにシフトする。遠い水準は近い水準より不確実性が高い |
| Deribit の BTC オプションのみ | 他の取引所や OTC のポジションは含まない | 他の取引所のフローは合計に含まれない |
| ディーラーは原資産で連続的にヘッジする | ヘッジは経路全体に沿って調整される | 実際にはヘッジは離散的で、一部は先物で行われる |
3. 計算式
3.1 満期のフォワードに基づくガンマ
各オプションは、Deribit 自身が BTC オプションを評価するのと同じく、その満期のフォワード に対して 金利ゼロ の Black-Scholes で評価します。ストライク 、インプライド・ボラティリティ (Deribit のマーク IV)、満期までの期間 (満期日の 08:00 UTC までの年数、1 年 = 365 日)のオプション について:
- はそのオプションの満期のフォワード価格、 はスナップショット時点の BTC インデックス価格です。 比率 (その満期のベーシス)はインデックスが動いても固定するため、インデックス価格 におけるフォワードは です。
- インデックスに対するガンマは です。コールとプットのガンマは同じです。
- と は標準正規分布の密度関数と分布関数です。満期を迎えたオプションと、インプライド・ボラティリティのない オプションは除外します。
3.2 ある価格における GEX
価格 におけるガンマエクスポージャーは、 付近の 1% の値動きに対してディーラーが売買する USD 建ての金額です。
ネット GEX は、この曲線の現在価格における値 です。ネット GEX がプラスならディーラーは差し引きでロングガンマ (抑制レジーム)、マイナスなら差し引きでショートガンマ(増幅レジーム)です。
3.3 ヘッジフロー H(P)
価格が だけ動くと、ディーラーブックのデルタは BTC だけ変化し、ディーラーはヘッジを 維持するためにその反対の数量を 1 BTC あたり ドルで売買します。これを から までの経路に沿って合計すると:
同値な表現として が成り立ちます。ヘッジフローは GEX が大きいところで最も速く増加し、 その傾きは GEX の符号が変わるちょうどその位置で符号を変えます。
3.4 閉形式解
金利ゼロかつスティッキー・ストライクのボラティリティのもとでは、この積分には厳密解があります ( が成り立つため)。
価格グリッドも数値積分も使用しません。満期まで数時間しかなく、ガンマの幅が $500 のグリッド刻みより狭いオプションについても、 すべての水準の値は厳密です。
3.5 インパクト
- 現在価格より上()では、ディーラーの買い()は上昇をさらに押し上げ、インパクト 、増幅 となります。 ディーラーの売り()は上昇に逆らい、インパクト 、抑制 となります。
- 現在価格より下()ではその逆で、下落局面での売りは増幅、買いは抑制となります。
プロファイルのバーとヒートマップの色は、USD 建てのインパクトです。
3.6 サマリー値
| 値 | 定義 |
|---|---|
| ネット GEX | 、1% の値動きあたりの USD |
| ゼロガンマ | の範囲で に最も近い の符号反転点。その範囲で曲線の符号が変わらなければ空 |
| フリップ | の範囲における のすべての符号反転点(昇順) |
| ±5% / ±10% でのフロー | 、、、 ちょうどにおける (最も近いグリッド水準ではない) |
| 最大の増幅 / 抑制ゾーン | 増幅 / 抑制の限界フローが最大となる $500 の水準帯( に近い側の隣接水準からその水準まで) |
- 符号反転点は、 を $100 刻みで走査し、各交差を二分法で $1 まで絞り込んで求めます。互いに $100 未満しか 離れていない 2 つの交差は検出できない場合があります。
- ゼロガンマ水準は、±30% のプロファイルより広い価格の ±50% の範囲で探索します。BTC ではゼロガンマが価格から 25–30% 離れた 位置にあることが多いためです。そのため、描画されたプロファイルの 外側 にあることもあり、その場合タイルには値が表示され、 チャート上のラインは端で切れます。
- 最大ゾーンは そのものではなく、水準帯の限界フローによって特定します。累積の は通常、範囲の端でピークになるためです。
3.7 計算例
2026-10-24 06:00 UTC の 1 時間ごとのボード、BTC インデックス価格 $80,661:
| 値 | 結果 | 解釈 |
|---|---|---|
| ネット GEX | 1% あたり +$32.3M | ディーラーは差し引きでロングガンマ |
| 価格 +5%($84,694) | = −$214M | ディーラーは上昇局面で売る — 抑制 |
| 価格 −5%($76,628) | = +$299M | ディーラーは下落局面で買う — 抑制 |
| 価格 +10%($88,727) | = −$324M | 抑制 |
| 価格 −10%($72,595) | = +$661M | 抑制 |
| ゼロガンマ | $59,068(−26.8%) | ブックがショートガンマに転じるのは大幅な下落の後だけ |
ネット GEX だけを使い、GEX が経路全体で現在の値のままだと仮定した概算では、+5% の場合 −100 × $32.3M × ln(1.05) ≈ −$158M となります。厳密なフローがどちらの方向でもこれより大きいのは、GEX が経路に沿って一定ではないためです。このボードでは、 GEX は現在価格そのものより、価格から数パーセント離れた位置のほうが大きくなっています。
4. 従来のストライク別 GEX との違い
一般的な GEX チャートはスナップショットであり、「今この瞬間の 1% の値動きあたりのドル」をストライクごとに分けて示します。 Dealer Hedge Flow は異なる方法で構築されています。
| 従来のストライク別 GEX | Dealer Hedge Flow | |
|---|---|---|
| 問い | 現在、各ストライクにどれだけのガンマがあるか | 価格がある水準まで動いたら、ディーラーは何ドル売買するか |
| 形式 | 現在価格におけるスナップショット | 経路:現在からその水準までのすべての価格でガンマを再計算 |
| 結果 | ストライクごとに 1 つの値(1% あたりの USD) | 価格水準ごとに 1 つの USD 建て合計値(増幅 / 抑制付き) |
| ディーラーポジション | 建玉から推測されることが多い(例:「ディーラーはコールをロング、プットをショート」) | すべてのオプションについて全約定履歴から再構築 |
| レジームの閾値 | 隣接するストライク間の符号反転であることが多い | 再計算した GEX 曲線のゼロガンマ水準 |
ストライク別の表示は、ストライク別寄与パネルとして引き続き利用できます。このパネルはディーラーのガンマが どこに あるかを 示し、ヘッジフローは価格が動いたときにそのガンマが 何をするか を示します。
5. レガシー値
API は継続性のため、いくつかの旧来の GEX 値も返します。シリーズでは legacy_* フィールド、プロファイルでは legacy
ブロックです。これらは Dealer Hedge Flow では使用しません。同じブロックには、プラスの GEX が最大のストライクとマイナスの GEX
が最大のストライク(サポートストライクとレジスタンスストライク)も含まれます。これらはスナップショット時点の Deribit の
ガンマで算出され、合計 GEX の絶対値が $1,000 未満のストライクは除外されます。
5.1 Deribit が公表するガンマを使用しない理由
Deribit はすべてのオプションについてガンマを公表していますが、小数点以下 5 桁 に丸められています。BTC では、 アット・ザ・マネーのオプションのガンマ自体が – 程度のオーダーであるため、丸め幅 はオプション 1 つあたり 5–50% の 誤差になります。さらに、ストライク間で符号の異なるディーラーポジションがあるため、これらの誤差は相殺されません。丸められた ガンマに基づき(フォワードではなくインデックスを用いて)算出したレガシーの合計 GEX は、厳密な Black-Scholes の値と異なります。 2026-10-20…24 の 106 個の 1 時間ごとのボードでは、厳密なネット GEX とレガシーのネット GEX の比率の中央値は 1.02 で、10% の ボードで 0.83 を下回り、10% で 1.15 を上回りました。当社は厳密な値のみをネット GEX として公開し、レガシーの合計値は レガシー値の中に残しています。
5.2 レガシーのフリップポイントがガンマフリップではない理由
レガシーのフリップポイント(legacy_flip_point)は、現在価格を挟む 2 つのストライク の間におけるストライク別 GEX の符号反転点です。ほぼ常に
価格から 1% 未満の範囲にあり、ディーラーブック全体がどこでレジームを変えるかについては何も示しません。本当の閾値は
ゼロガンマ 水準、すなわちその価格で再計算した GEX 曲線全体がゼロを横切る価格です(§3.6)。
6. データ
- ソース: Deribit の BTC オプション — 全約定履歴(テイカーのサイド付き)と、オプションボードの 1 時間ごとの スナップショット(ストライク、満期、マーク IV、フォワード価格、インデックス価格)。
- スケジュール: 1 時間ごとのスナップショットの直後に毎時新しいプロファイルを計算し、:20 UTC 頃に公開します。ボードの 完全性チェックに合格しなかったスナップショットはスキップされ、ゼロではなく欠損として残ります。
- 履歴: 2026-03-16 以降のすべての 1 時間ごとのスナップショット。最初のプロファイルの基になるポジションには、各 オプションの上場以降のすべての約定がすでに含まれているため、コールドスタートはありません。
- 欠損期間: 2026-06-08 … 2026-07-07 — データ収集の障害により、この期間のスナップショットはなく、したがって プロファイルもありません。約定履歴には欠損がないため、障害後のポジションは完全です。
- 日次値(指標リファレンスおよび日次 API シリーズにおけるネット GEX、ゼロガンマ、±5% / ±10% でのフロー)は、各日の 00:00 UTC のスナップショット(00:00 がない場合はその日の最初のスナップショット)で、08:00 UTC の日次満期からは 離れています。公開済みの日の値は変わりません。
- 満期直前の時間: 日次満期の前の 1 時間(07:00 UTC のスナップショット)では、残り約 1 時間のオプションがそのストライクに 非常に狭いガンマのスパイクを持ちます。このスナップショットでは、複数のフリップや価格のすぐ近くのゼロガンマ水準が 現れることがあります。これはモデルと整合しており、そのまま保持します。
7. ティア
| ティア | プロファイル | 履歴(ヒートマップ、シリーズ) | ストライク別寄与 | エクスポート |
|---|---|---|---|---|
| Free | 最新の 1 時間ごとのプロファイル | 直近 30 日、日次刻み(1d) | — | — |
| Pro、Enterprise | 2026-03-16 以降の任意の 1 時間ごとのスナップショット | 2026-03-16 以降の全履歴、刻み 1h / 6h / 1d | あり | あり |
指標リファレンスの日次メトリクスは、メトリクスカタログの通常のティアルールに従います (レート制限とプラン)。
8. API と MCP
| エンドポイント | 返す内容 |
|---|---|
GET /v1/options/gex | 日次シリーズ:BTC 価格、ネット GEX、ゼロガンマ、±5% / ±10% でのフロー、レガシー値 |
GET /v1/options/gex/hourly | 同じ内容を 1 時間ごとのスナップショットごとに(Pro) |
GET /v1/options/gex/profile | 1 つのスナップショット(デフォルトは最新、または date / ts で指定):水準、ヘッジフロー、インパクト、水準ごとの GEX、ゼロガンマ、フリップ、±5% / ±10% でのフロー、ストライク別寄与 |
GET /v1/options/gex/heatmap | from / to と resolution = 1h、6h または 1d に対する、時刻 × 価格のインパクト行列(価格とゼロガンマのオーバーレイ付き) |
- 金額はすべて USD 建てです。ヘッジフローとインパクトの符号は §1.1 に従います。
1hの ヒートマップは 1 リクエストあたり最大 90 日分です。 - 同じ URL でも、ティアによって返される履歴が異なります(§7)。パラメータ、レスポンスフィールド、制限、 エラーについては Dealer Hedge Flow API、API キーについては 認証 を参照してください。
- MCP サーバー は、これらのエンドポイントの上に 3 つのツールを提供します:
get_gex_daily(日次シリーズ)、get_gex_profile(1 つのプロファイルのコンパクトなサマリー:レジーム、ゼロガンマ、±1…30% の値動きでのフロー、最大の増幅 水準と抑制水準)、get_gex_heatmap(AI エージェントのコンテキストに収まるよう粗くしたプロファイルの履歴)。日次値は、get_metricを通じてカタログのメトリクスとしても利用できます。
9. 制約
- これはモデルです。 すべてのテイカー約定のディーラー側は仮定です(§2.3)。実際のディーラーは ディーラー同士でも取引し、先物でヘッジし、他の取引所にもポジションを持っています。
- 「今この瞬間に動いたら」。 ポジション、インプライド・ボラティリティ、満期までの期間はスナップショット時点で固定されています。 遠い水準(±20–30%)は現在のブックを表しており、価格がそこに到達したときに市場が持っているブックを表すものではありません。
- 単一の取引所。 含まれるのは Deribit の BTC オプションのみです。
- ヘッジだけがフローではありません。 プロファイルが測定するのは強制的な売買の 1 つの源泉にすぎません。現物や先物の 流動性、清算、裁量的なフローは、日によってはこれよりはるかに大きくなることがあります。
Dealer Hedge Flow は記述的なモデルであり、価格目標や取引シグナルではありません。